すまろ第四号より
タロット実践講座 第一回
これから、「タロット」というものについていろいろお話しするのですが、歴史や理論的なことはできるだけ後にして、「タロットの目的」について簡単に説明してから、タロット占いの実践へと入っていくようにします。 現在タロットは主に、鑑賞・コレクション・占い、あるいは魔術関係の瞑想などに使われています。もちろんほかにも、タロットカードでさまざまなことができるわけですが、この講座では、ほとんど「占い」という用途についてお話ししていくことになります。あるいは後々、その発展形としての象徴体形の構築という用途についても触れるかもしれません。
|
【タロットの発生と伝承】もしもタロットカードを遊戯道具としてみるなら、図柄や形、枚数にこだわらない限り、起源はどんどん遡ることができます。インドには絵入りのまん丸の遊戯カードがありましたし、コインや紙幣、木札や貝も範疇に入れればそれらはすべて何らかの遊びや占いにも用いられた可能性があり、実際明らかな遊戯目的のセットも発見されています。これらのいずれかがタロットの先祖であることも考えられます。しかし、現在占いに使用されている一般的な図柄と組み合わせのタロットカードに限定していうと、これは成立がいつなのか謎に包まれています。一番古いとされる記録がすでに量産タイプであったと考えられており、結局のところオリジナル原本なるものは見つかっていません。古くからある遊戯カードを再デザインしただけなのか、魔術的な意図で再編したのか、いまだ不明なのです。 したがって、製作者がその「本来の」使用法を記したような、正統の書物はありません。今日我々が目にすることのできる「説明書」というのは、すべてタロットカードなるものが巷に普及してのちに、後世のさまざまな人のさまざまな解釈のもとで綴られたものです。 例えば一部の魔術思想家たちがタロットの体系を洗練しようとしましたが、その一方で、並行的に依然として民間伝承のようなかたちでも今日まで伝わってきました。さまざまな人が思い思いに解釈しながらも、「占い」としては一様に強力な効力を発揮してきたために、何百年もの間一定の様式を保持したまま、ほとんどデザインに変化もなく広い範囲に伝えられてきたものと思われます。
|
【占いという用途】一般的なタロットカードは七十八枚で構成されます。そのうち、二十二枚の「大アルカナ」と呼ばれるカードは通し番号がふられ、それぞれに個性的で寓意的な興味深い絵が描かれています。古いタロットセットでは、「愚者」という名前の、道化師があてもなくさまよっているようなカードには番号がなく、反対に現在「死神」と呼ばれている、骸骨が大鎌を持っているカードには、十三番という番号だけで名前が書かれていませんでした。まあどう見たって死神なのですが、「死」という言葉はいい感じではないですから、配慮でしょうか。フランス語でも死神は「la Mort」といい、「mort」はやはり「死」という意味です。第一、このカードは「死神」であって「死」ではない、といってもみなさんすぐに納得できます? この神がもっている大鎌は農業の刈り取り用です。伝説ではこれで首を刈るなんていいますが、結局のところルーツの一端は収穫の神です。したがってこのカードは「再生」を意味することになります。マルセイユ版の現代の解説書にもそう書かれています。詳しいことはカードごとの個別の解説の時にまたお話しするとして、話を戻しましょう。 見てもらえばおわかりと思いますが、大アルカナというのは絵柄もすべてまるっきり異なり、通し番号があるという以外は一枚一枚独立していて分類も容易にできません。それに比べて「小アルカナ」と呼ばれる残りのカードは、一(A)〜十、従者、騎士、クイーン、キングの十四枚がそれぞれマーク違いで四枚ずつあります。マークというのはワンド、カップ、ソード、コインといった、いわゆるトランプのスートと対応するものです。この小アルカナは、騎士の四枚を除けばそのまま現代でも使用されているトランプになるわけです。 興味深いのは、現在のトランプにも必ず入っている「ジョーカー」が、デザインからして大アルカナの「愚者」の生き残りだろうということです。さらに、そのジョーカーのゲームにおける役割も、オールマイティーなカードとして用いられる場合がほとんどのようですが、タロットの象徴体系での「愚者」もまた、ほかのすべてのカードの寓意をまるごと消化して次元ごと外へ飛び出してしまったような、またある意味で空気のような、そんな超越的なカードなのです。トランプでもタロットでも、番号がふられていないということで、番号の体系から飛び出すことが許されているわけですね。ですから、このカードに無理矢理二十一番という番号をふってしまったパピュスという人などは、恐らく、他の人を混乱させようとしたのでしょう。というのも、私は実はこのパピュスという人の本でもタロットについてかなり多くのことを学んだのです。この人の理論にはおかしな点も数多いわりに、逆にとても見事な説明も見られ、結局どう評価していいのか困る人です。パピュスについては歴史の回にちゃんと説明しますが、十九世紀末から二十世紀初頭の、わりと理詰めな性格らしいお医者さんで、そのおかげでとても面白い本を後世に残した人です。理詰めなあまり強引なつじつま合わせもあり、神がかり的な色が少ない代わりに「愚者」に変な番号をふったりもしたようです。あ、わざとですよ、きっと。 すみません、話を戻しましょう。昔は、タロットのフルセットを使った遊びもあったようです。が、現代に継承される程には普及しなかったようで、現在では、タロットカードを遊びに使う人はほとんど居ません。タロットカードの一部分から派生したとも言われる「トランプ」があるからです。実際のところ、トランプの歴史も相当に古く、しかも広く普及しています。トランプが先だという説も立派に成り立ち、これまたどちらが先なのかはっきりしてません。 トランプのような、ギャンブル性とバリエーションの豊富な、遊戯により適したカードセットが古くから普及していたためか、時間とともにタロットの用途からは「ゲーム」がほぼ完全に消えていきました。その代りに、大アルカナの宗教的、あるいは魔術的で複雑なモチーフは、芸術家、文献学者、魔術家、占い師等の心を大いにくすぐりました。いえ、そもそも、大アルカナのカードというのは、(注意して見ればすぐにわかることですが)構成も描き込まれているアイテムの数々も、現存する最古のデザインを見ても、「遊戯目的にしてはあまりにも複雑」です。このことからしても、少なくとも大アルカナに限っては、初めから遊戯以外の何らかの目的で、一枚一枚のデザインに多くの象徴が散りばめられたものだ、という想像がつきます。ですから、現代まで伝わった「鑑賞」と「占い」という用途はある意味自然のなりゆきでもあり、特に占い道具としての用途は、本来的にも最初から意図されていたものだといってもよいのではないかと思います。
|
【タロット占いの入り口】さて、ということで、いよいよ実際のタロット占いについて少しずつ説明していきましょう。 まず一般的なタロット占いの場合、大アルカナと小アルカナを合わせた七十八枚のカードすべてを、裏返しの状態で存分にかき混ぜ(シャッフル)、気がすむまでかき混ぜたら一つにまとめ、まとめた山を依頼者かあるいは占い師が三つにカットします。トランプゲームではよく二つにカットしますが、タロットは三つです。たいていの人はそうします。三位一体とかと関連づける人もいますしそれは自由ですが、記録のある最古の文明とされるシュメールの時代から神聖視されている、最少の分割数だと思えば十分でしょう。他にも理由があるといえばありますが、それは理論の回で説明します。 カットした山は、また並べかえて一つに戻すのですが、そのときどれか一つの山をくるりと一八〇度回して上下(正位置と逆位置)を入れ替える作業が入る場合もあります。その際どの山を回すのかは、だいたい依頼者にたずねるようです。 シャッフルとカットが終わって無事(※カードがテーブルからこぼれていたりしないか、最初の頃は気をつけた方がいいのです。プロでも日の浅いうちはテーブルが小さいとたまにポロリということがあります)一つの山にまとまったら、その中から決まった枚数(一般的によくあるのは四〜十枚前後)を一定の方法で取り出して並べます。そして、ここで初めてカードをめくり、それぞれのカードの象徴的な意味と置かれた場所などをもとに、現在を中心に未来、或は過去をそれぞれ一ヶ月から二・三年のタイム・スパンで読み取ります。占い方法は多種多様です。大アルカナのみを使用する場合や、小アルカナの一部と大アルカナを組み合わせる方法もあり、スプレッドと呼ばれる展開方法=並べ方は数百種に及びます。展開するカードの枚数も、七十八枚すべてを並べることさえあります。 これらのバリエーションについては占い師の間でも、できる・できない、カードを依頼者にカットさせる・させない(触らせない)か、更に、カード背面のデザインも上下の有るものの可否等、さまざまな持論ややり方があります。しかし中国の「易」などでもそうですが、さまざまな占い方によって、それぞれに適用範囲と目的がちゃんとあります。また、基本的な「適性」がある一方で、「真髄」を会得すればすなわち万能、という考え方も根本にあります。素人でもある程度実践できるような一定の様式があり、熟達者はまた更に万能(どのような目的・方法でも占える)を目指すこともできるということです。素人でも一定の通例的なやり方に従えば、きちんと然るべきカードが並ぶのですが、場に並ぶカード達の意味を解釈する時点で、熟達者は更に深い意味を読み取る事ができるのです。普段あまりタロットでは占わないような内容や範囲についても応用がききます。それは「根本になんらかの普遍的な世界観、宇宙観が隠れており、そうした仕組みがある程度体感できるようになれば、あらゆることにもそれを当てはめていける。」という事なのだと思います。 この辺は「〜道」とか「〜術」とかにも、またあらゆる技術、技能にも、共通する事だと思います。 ではなぜタロットがそれほど奥深く、かつ、そこそこ実践しやすいのでしょうか。いまだ謎だらけな中で、唯一確実に言えることは、タロットが「なぜかよくできている」ということだけです。しかし、よくできたシステムがそこにあるということがわかっているなら、それが仮に偶然発見されたものであってもよいのです。「よくできている」ということは、何らかの普遍的な仕組みを、知ってか知らずかきちんとふまえているかもしれないという「可能性」を示唆します。そしてそのよくできたシステムを探究し、何かを発見したり、あるいは身体で会得したりした人は、応用によってそれを更に確かなものにしたり、勘違いを修正したりしていけばよいのです。タロットカード一枚一枚の意味も、絶対的な解釈を求めるよりは、人それぞれに体得したほうがよいのです。もちろん、さまざまな占い師や研究者の解釈を知る事は、限られた個人の経験というものを飛躍的に豊かにしますから、どんどん学ぶべきでもあります。もし、十分に納得できなければ参考程度に留めておけばよいのです。 タロット自体がよくできたシステムですし、教典などないのですから、臆せずカードをめくって、まずは眺めてみましょう。小アルカナはともかく、大アルカナならばすぐにもカードから何かを感じる人もいるでしょう。どうしても気負ってしまって、何も浮かばなかったり複雑に混乱したりする人は、気持ちの落ちついた時に一枚ずつカードを眺めて、瞑想というか自由に夢想してみるとよいでしょう。そうすると、訳の解らなかったカードにもさまざまな事を感じるようになります。こうした経験を増やしていけば、並べた数枚のカードの意味をつなげて、占いの内容に応じたストーリーを短時間で読みとることができるようになります。 小アルカナについては少し手間取ると思いますが、それでも毎日のようにカードに触れ、いくつかの解釈本などと照らし合わせていれば、ある程度のレベルに達するのにはさほど時間はかからないでしょう。
タロットは、あらゆる書物にも優る奥深い教典そのものかもしれないし、誰にでも扱える遊戯的民間魔術かもしれない。あるいはその両方かもしれないし、どちらでも無いかもしれません。ただ少なくとも「占い」については、何百年もの間素人から魔術家まで幅広く、しかもほとんど同じ様式で親しまれるような、魅力と効力があるのだといえます。 とにかく、まだまだ疑問だらけだとは思いますが、次回から実占のエピソードとともに、更に具体的な占い方法を説明していきます。個別のカードの解説はまだ先ですが、カード付属の解説書や巷の書物などをちょっと参考にしながらだったら、次回の講座でほとんど実際に占いができるようになるはずです。その後はそれぞれのカードの代表的な意味やタロットの歴史、少々難解ですが理論なども、順次解説していきたいと思います。 |