すまろ第五号より
青木ヶ原樹海探訪記(中編)こんにちは、風瑞希です。樹海探訪記前編はいかがだったでしょうか。特に僕自身に実害はないのですが、みんなトンでもない人達なんだっていうのがわかってもらえたでしょうか。そして、僕がどれだけ心細い思いをしたのかということが・・・。 さて、続きです。僕たちは池袋より土砂降りの雷雨の中、一路八王子城址を目指しておりましたが、その雷雨に阻まれるようにして、その目的地を富士青木ヶ原樹海に変えたのです。その後、中央高速を降りそこねた僕らの車で明さんが恐い話をし始めました。
「ふむ。その白い手というのは、右から左向かって流れていったんですか?」それまでほとんどしゃべらなかった、朱雀門さんが突然明さんに話しかけました。 「うん。ちょうど地面から三メートルぐらいの高さかなぁ。右からゆっくりと左に流れていったよ。・・・なにか視える?」明さんが逆に聞き返します。車はすでに霧の中に入っています。 「ええ、なにって言う実体は視えませんがね。なにか大きな流れみたいなものがあるのは解ります。」 「どおって事はないですね。霊道かなんかあるんじゃないですか?」威斗萎芙李さんが、窓の外を見ながらいってます。(どおってことないって・・・言ってる割に目つきが真剣ですけど・・・しかも、突然一人でニヤリとしないでくださいよぉ。) いきなり専門的な話になったので、素人の僕は黙って聞いていました。ただちょっと恐かったのは、車が時速百キロ前後で走っていて窓も閉まっているはずなのに、なんとなく車の中まで霧がかかったように、もやっているような気がしたんです。みんなに聞いて確認しようと思いましたけど、もっと恐い話になりそうだったので(威斗萎芙李さんとか脅かしそうだし・・・)静かにしてました。 そのまま僕達一行は山中湖でUターンをして(帰りも同じ霧の中を通りましたが、僕は恐いのでずっと目を閉じてましたからここは省きます。)河口湖ICに帰ってきました。インターチェンジを降りる時に、朱雀門さんが、 「そういえば富士の姫神さんのところに、ついでにお参りしていきません?最近、ご挨拶していないし。」と言い出しました。 「了解。一番近い富士吉田の浅間神社に寄っていこう。」と明さんが答えた。 「たしか、ここを右に行くと樹海で、浅間神社は左だよ。」と明さんがいいながら車を左折させた。しばらくいくと明さんが何か匂いを嗅ぐ仕草で鼻をクンクン言わせながら、「この辺なんだけどなぁ。あっ。いきすぎた。」と言って、少し進んでからUターンしました。真夜中で街灯もほとんどなく、道の両側は当然真っ暗です。スレ違う車のライトで、ぼんやり様子が見えるだけなのに本当に判っているのかなぁと疑っていましたが、明さんが車を左側の闇の中にいれると、大きな鳥居が目に入りました。 「すごいですね」と僕が言うと。 「昔から、神社だけは匂いで判るんだよね」と明さんが自慢げに言いました。 (やっぱり、変な人だ〜。)と思いましたが、僕は黙ってました。 車を降りて、全員で神社の前に進みお参りをしました。ずいぶん大きな神社で、周りにも大小のお宮がありました。 まず正面の大きな賽銭箱の前に進みました。明さんが、 「知ってると思うけど、正式な参拝の仕方は会釈・二礼・二拍手・一礼・会釈だよ。」と教えてくれました。僕は言われるとおりに明さんや他の皆さんと一緒にお参りをしました。こんな夜中に神社に来るなんてことは、正月とかでも無ければありません。正月は他の人もたくさんいますから、こんな静かではありません。神社のすぐ横で宍脅しというんですか。カッコーンという音が時々するので、ドキッとします。辺りはシーンと静まり返って、なんか喋らないと暗闇に吸い込まれてしまいそうな気がしてきました。マジで恐いです。そんなドキドキしている僕をほっといて、明さんは正面のお参りが済むと、さっさと右側の方に回っていきました。朱雀門さんと威斗萎芙李さんもそれに続きます。僕も恐いので、「ちょっ、ちょっと待ってくださいよぉ。」と言いながら後ろから小走りに着いていきました。朱雀門さんと威斗萎芙李さんが角を回ったときに、なぜか「あれっ?」と言って立ち止まりました。 突然前の二人が止まられたので、僕はぶつかりそうになりました。 「どっ、どうしたんですか?」回りをきょろきょろ見渡しているお二人に向かって尋ねました。 「いや、さっきまで騒がしかったですよねぇ。」と威斗萎芙李さんが朱雀門さんに訪ねるように言いました。 「ええ、かなりざわついていましたよ。」朱雀門さんも周囲を眺めながら不思議そうに答えています。 「えっ?なんか聞こえたんですか?」僕が訪ねると、 「あんなにうるさかったのに聞こえなかったの?」と、逆に威斗萎芙李さんが聞き返しました。 「えっ?なんにも聞こえませんよぉ〜。やだなぁ。脅かしてます?」ちょっと恐くなって朱雀門さんの方に助けを求めるように僕が言いました。 「霊聴だったか。あまりに自然だったので・・・・」朱雀門さんが苦笑しながら言いました。 「そうかぁ。僕もてっきり宴会でもしてるんだと思いましたよ。数人の野太い男性らしい声がワイワイガヤガヤと、この角に近づくまでだんだんうるさくなって、最後は耳元で叫いてるぐらいの音量でしたからね。『うるさいぞっ!』とでも怒鳴ってやろうと思って角を曲がったら、とたんにピタリ、と止んじゃったから狐にでも摘まれた心地ですね。」威斗萎芙李さんが目つき鋭く何か探すように見渡してます。 「ほう。僕には高音の女性の声の様に聞こえましたよ。」朱雀門さんが言いました。 「そうですか?僕には低音の男の声に聞こえましたけどね。あと太鼓の音のようなドンドンという音もしてましたね。」威斗萎芙李さんが朱雀門さんに挑戦的な言動です。(お二人ともぉ〜。僕はなんにも聞こえませんでしたってばぁ。怖がらせないで下さいよぉ。) 「二人が聞いた波長が違うんですかねぇ。ところで、何処から音がしてたと思います?僕の感じた方向からすると、あの建物辺りかな・・・」朱雀門さんはさらりと話をかわします。(大人だなぁ〜。) 「ふむ。僕もアレだと思いますよ。」と威斗萎芙李さんも指さします。 なんとお二人が同時に指さしたのは同じ建物でした。(ひぃ、止めて下さいよぉ。それって、すごく恐いんですけど・・・) 三人がその建物を見ていたら、その脇の方から神社の裏に回った明さんがひょっこり姿を現しました。あまりのタイミングの良さに僕は心臓が止まるかと思うほどドッキリしてしまいました。 「いゃぁ。間違えちゃったよ。」明さんは何事もなかったように、こっちに歩いてきます。 「どうしたの?」僕ら三人が立ち止まって明さんを見ているので不思議そうに言いました。 「今し方、その辺りでザワザワと騒がしくはありませんでしたか?」朱雀門さんが聞きました。「そう、男性の声です。」威斗萎芙李さんが説明をつけ加えてます。(うっ強気だ。威斗萎芙李さん。) 「えっ?なに言ってるの?こんな夜中にそんな訳無いでしょ。」明さんが笑いながら答えました。(そっそうですよねぇ。僕もなんにも聞こえませんでしたよ。変ですよね。この二人。よかったぁ。明さんは味方だぁ。) 「じゃあ、なんでこっちに帰ってきたんですか?」威斗萎芙李さんが聞き返します。 「えっ?だってさぁ、裏に回ったらいきなり『回り方が反対だぞ』って怒られちゃったんだもの。」と明さんが言いました。(うひ〜。誰に怒られたって言うんですかぁ。僕達以外、人なんて居無いじゃないですか〜。やっぱり、明さんも変だぁ。僕はどうすればいいんだぁ。) 「あの建物に何か感じませんでしたか?」朱雀門さんが明さんに確認するように尋ねています。 「なんかいそうな気配はあったけど、ほとんど気にしなかったなぁ。何かあったの?」明さんに逆に訪ねられたので、威斗萎芙李さんと朱雀門さんがさっきこの角を曲がったときの話をしました。 「ふ〜ん。まぁ、気にしないで行こうよ。ほら逆回りだって言うから、あっちだよ。」明さんはそういうと神社の表の方に帰っていきます。二人ともちょっと後ろを振り返りながら明さんに続きました。僕も、こわごわついていきました。ここに一人で残されたらなにが起こるか判りません。(僕にはシーンっていう音が聞こえるくらいに静かだったんですよ。) 神社を反対側からぐるりと回って、さっきの問題の建物のそばまで来ました。 「これだよね。」明さんが二人に確認するように聞きます。 「そうですね。でも今はなんでもないですね。」威斗萎芙李さんが答えました。朱雀門さんも肯いています。(ほらっ、やっぱり気のせいですよ。そうでしょ?そうだと言って下さいよぉ。) 「そうだよねぇ。なんにも感じないなぁ。でも、この社の神さんなんでこんな所に奉られてるんだろ。変だなぁ。」明さんは、この神社(やはり境内にあった神社の一つでした。)の神様(ご祭神って言うらしいです。)は浅間神社の系統ではないので不思議だとかなんとか・・・難しい話をされたんで神様の名前も忘れてしまいました。(とにかく、ここを早く出ましょうよ。・・・恐いんですから。) 僕の気持ちを知ってか知らずか明さんは、この後も神社の中をいろいろ説明しながらみんなを連れ回しました。朱雀門さんが神社の本殿には沙久弥姫(詳しく聞いたら浅間神社の御祭神なんですね。あんまり親しそうに言うから知り合いだと思ってしまいましたよ。)はいらっしゃらず、ご眷族(神様の下で働くお使いのことだそうです。)が見守ってらしたそうで、沙久弥姫のような高位の存在は通常こういった下の世界にいることはないとも教わりました。(恐かったけど、最後の方はなんとなく深遠な神社の杜の雰囲気に影響されたのか、ちょっと清々しい気分でした。) 小一時間ほどかかって、いよいよ神社を出発です。明さんが、 「さぁ。樹海いってみようかぁ。」と言う言葉に、僕はもっと恐いことが待っていた事を思い出してしまいました。(やっぱり行くんだぁ。やだよぉ。帰りましょうよぉ。) 神社を後にして、いよいよ樹海に向かいます。 明さんが、「樹海の入り口はそこら中あるけど一番のポイントは西湖近くの風穴かな。あそこだと、いろいろあるかもね。」と僕を脅します。 すごく憂鬱な気分になってきました。いやだなぁ。 |