すまろ9号より抜粋


現代神道実践の栞

修 道 編(その一)

八雲 斎庭
 神道の行法を実習研鑽する者達を総じて「道人(みちびと)」と云うが、既に「大祓ひ行法」「禊行法」を体得実践された諸君達は、立派な「道人」である。本「現代神道の栞」でも初講を終え、続いて中級とも云える「修道編」にはいる。

 修道編第一に修得するべき技は「鎮魂(ちんこん)」である。
 「鎮魂」についての詳細は後ほどするとして、ここでは現代神道における「鎮魂」について簡単に述べる。
 現在の神社神道は、戦後すぐに大幅に宗教という体裁をとる必要性に迫られて再編成され、既存の祭礼法のみを伝承し、全てが儀礼化された所作のみを残している感がある。
 その最たるものが、一般神前拝礼作法の基本にある。現在の作法では、「二拝 祝詞 二拝 二拍手 一拝」が普通であることは諸君らの既にご存じのことと思う。ところが、ほんの戦前(既に50年以上が過ぎてはいるが)までは「再拝両断」といって、「二拝 二拍手 祝詞 二拍手 二拝」という作法であった。(もちろん一般参拝者には指導を強いてはいないが、伊勢神宮の八拍手や出雲大社の四拍手等、古伝の作法を継続している神社も多数ある。)実は意外と知られていないが、今では神社の専売特許のように認知されている「神前結婚式」等の祭祀も、この時期から始まっている。
 基本の祭礼法をしてこの通りであるから、諸祭儀の伝承も推して知るべしとも云える。すでにお教えした「大祓ひ行法」や「禊ぎ行法」も、その波を受けている。ただ、この再編成化に於いて、全国諸神社の儀礼法が統一され(各神社伝承の祭儀祭礼については古伝による事との申し送り付きである。)それまで各社個々の祭儀(多くは吉田流もしくは伯家流に拠るものであった)が広く一般化された功績は大きい。
 さて、そうした背景を持つ現代神道において、儀礼というよりは唯一個人修練の匂いが強く残っているものが「鎮魂」である。当然、現在では「鎮魂祭祀」という形態で存続されてはいるのだが、今回紹介する「石上神宮(いそのかみじんぐう)*1傳鎮魂祭祀」においても、個々の所作における「鎮魂」の技が伝えられている。
 「鎮魂祭祀」は、現在一般的に良く知られている古神道系(学派神道系)*2のものを除くと、現代神道に伝わる古伝系のものは二種に大別できる。
 その一つは、御簾内で猿女君(さるめのきみ)役の女官が、伏せた筥を杖で打ち突きつつ祭祀を行うという、東北の唐松神社(物部神社)に伝わる「天細女命(あめのうずめのみこと)傳鎮魂祭」である。そしていま一つが、今回伝授をする「石上神宮傳鎮魂祭祀」である。ただ、どちらにしてもその祭祀の中心が「十種神寶(とくさのかんだから)」であり、古代有力祭祀氏族の物部一族に伝えられた神法に相違いない。古文献を紐解くと元々は同じ一連の祭祀であったようだ。
 本来の「鎮魂」には、自修と他修の両面の技があり。前者は神前にて玉體主上に向かって施される他修の祭祀であり、現在では「宮中鎮魂祭」がその最たるものである。一方後者は、自修に行われる祭祀であり。故に道人諸君に有義の祭祀であろう。(神社神道に置いても、有資格十年以上の神職を対象にした中堅神職養成研修と称して石上神宮に参篭し実際に鎮魂講習を受けるカリキュラムになっている。)

「鎮魂」について
 ここで、「鎮魂」について説明しておこう。現代神道に於いて「鎮魂」は、「ちんこん」と「ふりたま」の二つの読みがある。前者は、各自の内にある神性(神道では、人間は神の子孫であり、分霊(わけみたま)した存在であると説く。それを直日霊(なおひのみたま)と云い、各個性の本質であると考えている。)を活性化しコントロールする事を意味している。後者は、本来は別に「振魂」の字を当てるが、これは三段階に考えられている。第一段階は「降魂」であり、天空より神気を呼び降ろすことを意味している。第二段階は「触魂」であり、天空からの神気と各自の身体内の神性とが触れ合う事を意味している。そして第三段階が「振魂」であり、の融合しあった神気と神性がそのエネルギーの発露で、各自の霊魂と肉体を大きく振幅し動かすことを意味している。この時、身体が大きく動く動作を「体を切る」とか「霊動する」と言っている。即ち、「鎮魂」とはこの一連の作用を意識的に発生させコントロールする技を謂うのである。
 これは古神道でいうところの「鎮魂帰神」の両方の動作を兼ねた意味である。まず、身体に帰神を行う呼び水としての狭義の鎮魂があり、続いて帰神を行うことによって各自の霊魂を神霊化し、祈願や祈念を実体化させる神業を発動させるという意味まで全て含んだ広義の鎮魂があるのだ。この論理は実は現実世界に於いても擬似的に顕現されている。それは、まず大地の表層にに呼び水となるマイナスイオンが集まってくる事により、大気中のプラスイオンが集積し、天空より大地に電撃となって降りてくる、古代の人はそのメカニズムを知ってか知らずか、「神成り」「神生り」「かみなり」と言ったのである。まさに、「鎮魂」のメカニズムに類似しているではないか。

「鎮魂」の実習
 さて、それでは実践のための解説をする。「石上神宮傳鎮魂祭祀」は、全体に三つの祭祀からなっている。まず鎮魂の準備に至る修祓(御祓い)の儀。次に鎮魂の本体である布瑠部神業。最後に鎮魂した身体を保って祈願する神拝の儀である。まずは各祭祀ごとに式次第を示し、続いて詳細を解説する段取りで伝授していこう。


鎮魂祭祀 式次第

(以下略)

布瑠部神業

(以下略)

神拝行

(以下略)

退下
 続いて詳細の解説に進む。

・鎮魂祭祀 式次第
 (ちんこんさいし しきしだい)
 石上神宮傳では、神宮内鎮魂殿にて祭祀を行う。祭祀対象の神名は古伝によりロイ。

・一拝
(以下略)

・振魂
(以下略)

・修祓
(以下略)

・二拝 二拍手
(以下略)

・大祓詞(斉唱)
 大祓詞を全員にて斉唱する。一回。音韻は平拍子。

・十種祓詞(斉唱)
 十種祓詞(とくさのはらへことば)を全員で斉唱する。一回。音韻は平拍子。十種祓詞は新式石上傳による。(請参照、呪文其の一)


 十種祓詞

(以下略)



・ひふみ祓詞(斉唱、適度反復)
(以下略)

 ひふみ祓詞

 ひふみよいむなやこともちろらねしきるゆゐつわぬそをたはくめかうおゑにさりへてのますあせえほれけ

・十種神宝大御名(斉唱、適度反復)
 十種神宝大御名を全員で斉唱する。適度反復。音色は低音の平拍子。

十種神宝大御名
(以下略)

・二拍手 二拝
 先に同じ。

・一拝
 先に同じ。

・布瑠部神業
(以下略)

・一拝
 先に同じ。

・安座行*3
(以下略)

・手の術(各振り十度)
(以下略)

・息の術
(以下略)

・一拝
 先に同じ。

・静座(瞑目、整息)
(以下略)

・一拝
 先に同じ。

・神拝行
(以下略)

・二拝 二拍手
 先に同じ。

・神拝詞(斉唱)
 神拝詞を神前に向かいて一回奏上する。音韻は平拍子。


 神拝詞

(以下略)


・稱言(斉唱)
 稱言(たたへことば)を一度斉唱する。もし祈願のことあれば、そのまま體を伏せ、心中に願意成就を描きつつ、無声にて斉唱を続ける。

 稱言

(以下略)

・二拍手 二拝
 先に同じ。

・退下
 各自無言にて神前より退く。

以上。もし善く鎮魂のことあれば、各自霊性は格段の飛躍を進め、須らく神人と成すと古より伝うとある。
(以下略)

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