八王子城趾探訪編(前編)
皆さんこんにちは。ご無沙汰しています。風瑞希です。
僕のことをお忘れでしょうか。以前にこの「すまろ」誌上で拙文を書かせていただきました。「明さんにこんなひどい目にあわされました。恐かったです。」と言う内容でした。実はあれからがもっと大変でした。
僕の回りに不思議なことや怖いことが次々と続いておこったんです。すっころんで骨は折るし、ハードディスクがフットンで文章DATAが消えてなくなるし、金縛りなんかはしょっちゅうですし・・・。その上、なぜか僕の部屋に出るんです。えっ。なにが?って、アレです。・・・彼女ですよ・・・。
ある晩のことです。夜中近くになって、布団の中で目が覚めた僕は、金縛りになっていることに気がつきました。「またか・・・」、そのころ、あまりに頻繁に金縛りなるので、少し慣れて来ていました。金縛りと言っても、体がなんとなく重苦しくて動かないだけで、ほかには何もなかったんです。そのまま眠ってしまうと、翌朝には解けていました。
ですが、その晩はいつもと様子が違いました。誰か枕許に座っている気配がするのです。僕はギョッとして身を布団の中にすくめようとしました。ところが完全に金縛りになっていて、体がピクリとも動きません。部屋の中は真っ暗なんですが、確かにだれかがそこに座っているのがわかるんです。
僕はもうパニックになっていて、なんとか体を動かそうと思うのですが、なんともなりません。目だけはかろうじて開けることが出来ましたので、暗闇を透かして見ると、なにかボーと白い靄のようなものがあります。どうも人が正座をしているような感じがしました。
そしてさらに、もっと恐ろしいことが起こったのです。その白い靄の顔の部分と思える白い塊が、僕の顔におおいかぶさるように近付いてくるではありませんか。「うっわぁぁぁ」声にならない声で叫んでも、どうにもなりません。
その白い顔は、徐々に近付いて来ます。一生懸命抵抗して目を閉じることができました。ちょっとホッとした次の瞬間、僕の顔の全部が、なにか生暖かいものでつつまれました。もう恐くて息することもできないくらいでした。
でも、もっと恐いことが・・・。僕の目が、無理矢理こじ開けられるように、だんだん開いていくんです。一生懸命抵抗しても無駄でした。少しづつ、僕の目は開かれていくんです。だんだん・・・だんだん・・・。・・・ああぁ・・・。
すいません。僕の記憶に有るのはそこまでなんです。
不覚にも僕は気を失ってしまったみたいです。ただ、その時の記憶はないんですが、なんとなくそこにあったのは女性の顔だったような気がします。
次の日、明さんに報告したら、「樹海で出逢った女性に、惚れられちゃったんじゃないの。モテモテじゃないか。」って、いつも通りの無茶言われますし。自分の部屋に恐くて帰れないので、三日ぐらい友達の所に泊めてもらっていたんですが、そこでも全員が金縛りなっちゃって。友達から、「お前が来ると変なことが起きるから二度と来るなッ!」って追い出されるし。(本当に塩までまくんですよ。ひどすぎ。)
でも、そんなのはまだまだ本当の不幸ぢゃなかったんです。
本当の恐怖の大王が、僕の部屋のドアをたたいたのは、7の月も過ぎ、8の月も半ば過ぎていました。
夜の1時過ぎ。
誰か僕のアパートのドアをノックしてます。
誰だろうと開けますと、
「さぁ、いこうか。」
某TV局のディレクターのようなセリフでした。
「・・・・・」
明さんです。
有無をもいわせない明さんに促されて、車の後部座席に滑り込むと、なんとも云えない爽やかな香りがしました。
「えっ。」と僕がつぶやくと、
「あ〜。紹介しとこう今回はイフリート君が、フランスに飛んでったまま帰ってこないこないから、代役だ。魔女の由里香さん。」
「え゛っ?!」
「こんにちは。はじめまして。イフリから、お噂は聞いてるわ。楽しい方ですってね。」
はっきり言います。由里香さん。かなり綺麗な方です。でもでもでもでもでも・・・。
「あのぉ。すいません。魔女って・・・。」
「あら、そんなにおばあちゃんじゃないのよ。」
「いや・・・。そういうことではなくて。」
あまりにも、普通ににこやかにされてしまったので、それ以上は聞けなくなってしまった・・・。
(普通のふりをするな〜。もう騙されないぞ〜。明さんの知り合いなんか信じないぞ。あ〜。でもなんかいい匂い。)
「やあ久しぶり。あれから大変だったみたいだね」前の助手席から聞き覚えのある声がした。
あっその声は〜。僕の心の支え冬星さんだあ〜。助かった。これで何とかなるかもしれない。
僕は、冬星さんの声を聞きちょっとだけほっとしました。
「とっ冬星さ〜ん。お久しぶりです。もう大変でしたよ〜。次から次ぎへと不幸が襲ってきて、いま生きてるのが不思議なくらいですよ。ホントに、みなさんのせいですからね。」
僕の発言に明さんが
「はははっ、瑞希もいうもんになっただろ?」
といい、冬星さんも
「そうですね。これからが大変だっていうのに。」
なんていいだした。
「え?!」
(いっいまの会話はいったい。話を変えなきゃ!ヤバイ方向に行ってるかも。僕にだって学習能力はあるんです。こんだけつき合ってれば、このままほっとくと、話がどんどんヤバイ方向、つまり僕が聞きたくない話になっていくことぐらい、察しがつきますよ。いまの内に話題を変えないと。え〜とえ〜と・・・。そっそうだ。)
「あの〜。明さん。」
「ん?なんだ?」
「それで、今日はどちらに・・・。」(あっ、これはまずかったか?)
「ふふふっ。」
(ふふふっ?!・・・・・・。なんだかなそれは。)
「聞いて驚け。」「八王子城趾。」
(聞いて驚けって・・・。まったく子供じゃないんだし、いまどき流行らないおやじギャグ言ってる場合じゃ・・・。って、はあちいおうじいじょうしいい〜!)
「はっ八王子城趾って、あの八王子城趾ですか?!」
「そう!驚けたか?」
(なっなんかヤケに嬉しそうじゃないすか?明さんってば。)
「なんで今頃〜。」
「え〜。だって今週はスペシャルだぜ。」
(なんなんですか〜。そのスペシャルっていうのは〜。)
「でも、あんなに嫌がってたんじゃないんですか?どして急に。」
「ああ、去年はね。今年は大丈夫。去年からそのつもりで準備しといたからね。ほらなんせむちゃ大変だからね。あそこは。特にスペシャルだし。」
(じゅっ準備だあ〜ぁ〜。あんたって人は、去年はあんなにイヤだイヤだと、だだこねて、そのあげく。富士の樹海の方がよっぽどマシ。とかいって、さんざん人を怖い目みせといて、今年は準備万端だから行こうってことかい?そして、夜中の一時過ぎにうちのドアをノックするか?・・・って大声で怒鳴りたいけど、やっぱり明さん恐くて言えない。)
「明さ〜ん。だいたいそのスペシャルって何ですか?」
「ほら、前回も言っただろ。八王子城趾は、8月末の落城の頃が一番ヤバイよってさ。」
(「ってさ。」じゃないでしょ、「ってさ。」じゃ〜。よりよって、その一番ヤバイ時期を選んだのですか。いやすぎ〜。)
「明さ〜ん。僕・・・。下ろしてもらって良いです?」
「え?なに?聞こえな〜い。」
「ぼ・く・を・お・ろ・じ・で・・・・。」(大泣)
僕の願いもむなしく、いつの間にやら車は高速を降りて八王子城趾に。
「そっそれにしても、ずいぶん急いでませんでしたか?」
僕は、明さんがなにか意味あるほど、スピードを出していたんで、気になってたずねてみた。
「え〜?それは当然だろ?」
「なにが当然なんですか?」
「なに言ってるんだ、いつも僕が言ってるだろ?」
「なにをですか?」
「霊魂を、見たきゃ選べよ、丑三つの刻。てさ。」
「・・・・・。」
(はっはじめて聞きましたけど・・・。それ・・・。)
「そっそれだけですか?もしかして。」
「なに言ってるんだかな。この手の戦じゃ、時間を選んで先手をとるっていうのは常識だろ。それくらい勉強しときたまい。」
(いっ戦って・・・。いくさってなんですか。そういう話は聞いてませんが・・・。僕。)
「それで、みなさんサバイバルゲームのような、ものものしい格好なんですか?」
(それって、ものすごくいやすぎなんですが・・・・。帰りたい・・・本気で・・・。)
「風くん。もう良いでしょ。それより既に城趾霊団の勢力圏に入ってるんですから、静かにしましょう。明さんの言う通り、尋常でない場所である事には間違いないんだからね。」
冬星さんが、僕らの会話をとぎるように言い出した。
「はっはい・・・・。」
(なっなんか本気ですね、冬星さん。恐いんですが、むちゃくちゃ。)
「さあ、風くんもこれを着て。」といって、チョッキを手渡されました。
「冬星さん。これ、背中の部分が赤いんですね。」そのチョッキは、背中に当たる部分に真っ赤な布が当てられていた。
「ええ。そこに呪符が縫い込んであります。それが、君のオーラに反応して護ってくれますよ。」
「そっそうですか。」(あの〜〜。)
「それと、これをお臍の部位に当てといてください。」
冬星さんは、半紙を四角く折り畳んだような物を手渡しながらいった。
「これは?」
「焼き塩です。それを当てとけば最悪でも死ぬようなことはありませんからね。」
(最悪って・・・。死ぬって・・・。冬星さん、優しい口調ですけど、むちゃくちゃ言ってませんか?だいたい、今日の目的は何なんですか?僕が来る必要あったんですか?本当にヤバイ場所なんでしょ?みなさんの装備みてればわかりますよ。でもでもでも・・・。)
「じゃあ、明さんは手はず通りに前をお願いします。僕は左右で、ユリカさんは後ろを。例の物も忘れないように。」(冬星さんが、テキパキと仕切ってます。ホントにマジなんですね。)
「準備は良いですか?じゃあ行きましょう。時間ですから。」
冬星さんに指示されるままに、僕たち一行は、暗闇の中に出発した。この時点で僕は、恐わさはありましたが、それほど危険と言うような感じはありませんでした。だいたい八王子城趾と言うイメージから、僕は勝手に人里離れた山奥の様な場所を想像していたのですが、実際にはそれほど山の中ではなく、周囲にはコンビニもあるくらい開けていて、ちょうど整備された公園の入り口のようでした。
僕らが最初に向かったのは正面ではなく、左側に迂回した感じの小道でした。
道は、本当に真っ暗でした。山裾に沿って曲がりくねっているので、ちょっと先もみとうせません。
明さんは、どんどん先に進んでいきます。みんな無言で歩いています。道路は舗装もなく、そこら中に水たまりがあるので、歩きにくいことこの上ないです。しばらく行くと、少し広くなった場所にでました。左側に乗用車が止めてあり、右側には外灯と階段があります。
「あれ?ここってもしかして。」
僕は、前を行く明さんに声をかけました。
「そうだよ人家さ。ここに住んでるんだね。」
「大丈夫なんですか?」
「さあ、でも勇気あるね。なにも感じない人でも、ちょっとここは恐いんじゃないか?」
「そうですよねえ。でも、本当に怪奇現象とかあったら、住んでられませんよね。」
「そうだな。それは言えてるかも。」
僕は、この時点でちょっとだけ安心したんです。冬星さんも死ぬとか言ってちょっとオーバーだな。明さんが脅かしすぎだよね。きっと。ぐらいに感じ始めていました。
僕は、これから体験する多くのことを知りませんでした。そして、それは二度とというより、一度でも体験したくないことでした。これからお話しすることは、ほとんど荒唐無稽の作り話のようになるかもしれません。でも、これだけは信じてください。八王子城趾は、本当に実在し。本当に僕たちは行って来たんです。冬星さんが、マジで緊張し、明さんが行くのを嫌がって一年間準備をしたという、そんな場所があるんです。
人家を過ぎて再び周りは真っ暗となりました。ただ、行くての右側は暗い藪でしたが、左側は水の音がして川が近くに流れているようでしたし、空には満月が煌々と照らし始めていました。その月のせいでしょうか、僕らの進む道だけが、なにか光ってるようにも感じました。綺麗でした。
思わず立ち止まってみとれてしまった僕の後ろから、冬星さんが声をかけてくれました。
「綺麗だろ。こうゆう場所があの世とつながってるんだ。」
(あのおぉぉぉ〜)
その時です。前を行っていた明さんが、急に立ち止まりました。
「どっどうかしましたか?」明さんが黙って立ち止まってしまったので、僕は恐る恐る尋ねました。
「しっ。ちょっと、止まって。」
明さんが、いつもの明さんじゃない。(えっえっ、どうしたんですか?)
そして、しばらく暗闇を見つめていた明さんが進み始めました。
「大丈夫。さあ、行こうか。」
「なにかあったんですか?」
「いや、なんでもない。」
(いつもの明さんじゃないです。どうしちゃったんですか。勘弁してください。)
この辺りで、そろそろ本当に恐くなりだしました。
また、全員無言で歩き出しました。なにやら、辺りの空気も気配が変わってきました。
前方に、大きな緑色の鉄柵がありました。車止めとあります。そこを通り過ぎながら、明さんが、
「以前、テレビ仕事でここを紹介しちゃったらさ、うけちゃって、それ以後心霊番組の定番になったり、若い衆の肝試しで人集まり過ぎちゃって、車は入れないようにしたらしいよ。」といいだしました。
「じゃあ、結構人きてるんですか?」
「ああ、たぶんね。この先行けばわかるよ。もうすぐ到着だ。」
水の音が、せせらぎの音から、ゴーゴーという滝の音に変わりました。
「あれ、滝でもあるんですか?」
「ああ、落城の時にみんなが身を投げた滝があるよ。」
「へ〜」
「こうやって手を合わせてさ。女性は腰紐ほどいて足元縛ってね。一人の武将が、介錯して一人づつ落としたんだってさ。」
(なんか、むちゃくちゃリアルな話し方なんですが・・・。見てたんですか?って、それは恐すぎ。)
「なんか見てたみたいに話しますね。」
「いや、見てたのは僕じゃないよ。」
(って、いるんですか?見てた人。いるんですね。いるんでしょ。いやだよ〜。誰か助けて。)
「・・・・・。」
そんな話をし終わったあたりで、明さんが足を止めた。
明さんのハンドライトの光の中には、「南無妙法蓮華経」の文字を墨書した卒塔婆が何本も立ててあった。そして、いつ誰が来たのかは定かではないが、線香のくゆり煙が、まだ辺りを漂っていた。
僕は思わず手を合わせてお祈りしようとした時。
「馬鹿野郎。こんな所で手を合わせて、どうすんだ。周り中取り囲まれちまうぞ。ったく、覚えれろよいい加減に。」と低く小声だけど、ものすごい勢いで怒られてしまった。
(そんなの聞いてませんよ〜。どうやって覚えろと。でも、どうせ聞いても、「そんなことは自分で考えろ。」ってまた怒鳴るんだよな、明さんは。)
僕は、ビクゥッとして、手を下ろした。
「それより、さっさと結界張ってしまうぞ。こっちから回られたら、挟み撃ちになってしまうからな。さあ、準備しよう。」
明さんが、他の二人を促して、さらに奥に進んでいきました。
僕も恐る恐る後をついていきました。
「瑞希こっちだよ。」
明さんが、僕を呼びました。奥に進むと、右手にさらに上に登るような坂道があらわれました。
「おまえはここだ。」
明さんが地面を指さします。
「えっ、ここでどうすれば・・・。」
「ここに、こっち向いてたってればいいんだよ。でも気をつけろ、なるべく口をきくんじゃないぞ。」
「え゛・・・。なんで・・・。」
「こ〜ゆ〜、シュチエイションでそれはないだろ。おとぎ話でも古事記でも、口をきったり、目を開けたりしないもんだぜ。」
明さんが、もっともな説明をしてくれました。どうやら、僕はここで目を閉じて口をきかない仕事を振り当てられたようです。(それって、真剣に恐ろしいことが始まろうとしてませんか?僕って、ただの人なんですが・・・。なんで、こんなことに巻き込まれてしまうんだろう。誰か、この不幸から救ってくれませんか。もし今日生きて帰れたら、田舎に帰ろうかな僕。)
僕が目を閉じると、僕の左右前方に人の気配がしました。きっと冬星さん達なんでしょう。
そして、誰か僕の正面に立ったと思ったら、いきなり空気が重苦しい感じになりました。
低い声で、呪文のようなモノが聞こえ始めました。それも、三方からなにか別々の言葉を唱え始めています。
(恐い。恐いよ〜。な・・・。)
僕が心の中で、叫び声を上げそうになったときでした。
突然、激しい悪寒というんでしょうか、背中が痺れるような感覚が後ろの足元から、僕を包んだのです。こんなのは生まれて初めてです。前回の富士樹海でもこんな事はありませんでした。僕は激しい吐き気と恐怖で大声をあげました。しかし、僕の声は声になっていませんでした。まるで金縛り状態のようになっていたのです。動きたくても動けません。しかも、全身の毛穴という毛穴が泡立つように鳥肌立っていくのがわかりました。僕の頭の中では、エマージェンシーアラームがレベル5の最終警報を鳴らし続けています。そして、意識が遠のいて気を失いそうになったその時。僕は誰かに後ろからドンッという強い力で押されたのです。
「あ゛?!」
僕は声にならない声を出して、前に転びそうになるのをこらえて一歩前に飛び出ました。
「おっと、大丈夫?」
その僕を転ばないように右側から支えれくれたのは、冬星さんでした。
目を開けると、目の前に三人の顔が。そうです。三人とも僕の前にいたんです。(っじゃあ・・・。)
幸い目が開いた瞬間に吐き気や悪寒はスーと消えていきました。ただ、全身の鳥肌が収まるにはしばらく時間がかかり、さっきの体験が、夢ではないことを僕に教えてくれました。
「さあ、じゃあ本番行くぞ。」
明さんが、僕の肩をたたきながらニッコリして言いました。
「はあ?」
(いっいまのは、なんだったんですか?本番って?これで序の口?もう十分です。帰りましょう帰りましょうよ〜。)
しかし、明さんはなにも聞こえなかった様に、次の場所に移動しようとしていた。
(どっどうなってしまうんだろう・・・・・。)
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